彼女

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 原田斗貴央(はらだときお)は、今日も例に漏れず、生産性のない放課後を送っていた。  寄り道したファーストフード店で目の前に座る友人二人が恋愛話で盛り上がっているのを黙ってぼんやり眺める。  内容はどうやら新しく出来た彼女のことのようだ。  はっきり言ってこれは斗貴央の苦手な話題である。なぜならば── 「斗貴央! お前も恋愛しろ! 恋愛!」 ──そう。こうやって飛び火してくるからだ。 「いや、俺は別に……」と面倒そうにコーラを啜る。 「お前にも潤いが必要だって! 彼女作れよ!」  最早、斗貴央の意見などはなから聞いてはいない。潤っていないことは前提かと、斗貴央は大きくため息をついて席を立つ。 「ちょっと、便所」  普段、友人間で恋愛話などはそう出ない。なぜならば女子生徒の存在が希少価値とされる我等が工業高校で彼女を作るのは至難の技だからだ。校内では偏差値よりも男としてのヒエラルキー上位とされる存在だ。  自分も、友人も、基本的に恋愛よりも男同士ツルんだり、今時流行りもしないとわかりながらも不良ぶって喧嘩してみたりと、所詮、恋愛とは縁のない生活を送っていた。     
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