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「一たす――なに!?」先輩の足もとに光るものが見えた。
カーテンを引く。黒いジャンパーを着てマスクをした男が鞄を大事そうに抱えて、逃げていく。
光ったのはカメラのレンズだと思い至った。
先輩の下着を盗撮しようなんざ、あたしが許さん!
「待てやグォラァ!」
レースゲームの筐体のそばをダッと一気に駆け抜ける。あたしは間違いなくF1なみのスピードが出ていたはずなのにぜんぜん追いつけない。
「盗撮犯です! 捕まえてぇっ!」
あたしが叫んだのに驚いた少年たちのそばをすり抜けて、男は外に飛び出す。
あたしも外に出る。のんきな日差しにイラだったとき男が路地に入る。
ちくしょう、走りづらい、ミュールなんて履いてくるんじゃなかった!
「グォアッ」
何かを踏んづけてズルッと滑って転んだ。バナナの皮だった。
「野生の猿でもいんのかこの街はァッ!!」
悪態をついてから、あたしは泣いた。ポロポロ泣いた。
と、水色のハンカチがスッと差し出された。
先輩が屈んでいた。柔らかな笑みさえ浮かべている。
ハンカチを受け取る。
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