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ペコちゃんみたいに舌を出して、子供をポイッと傍らに放り捨てると、イテッと声がした。
「バカ! ブスブス! バカ!」
子供は立ち上がって稚拙な悪罵を浴びせると帰った。
「利口! 美人美人! 利口!」
とりあえず相殺相殺。
「はは、おまえはおっちょこちょいだな」
先輩があたしに笑う! ああ! なんたる幸福! いても立ってもいられず駆け出す。カギを借りてくるんだっ!
☆
先輩は剣道部の主将をしてる。
試合形式の稽古が始まる。
先輩の相手は団体戦でいつも副将を務める上級生で、ふだんは空気中の酸素を取り込んで二酸化炭素を吐くことを主に行っているんじゃない? 知らないけど。
あたしは時計係で先輩に釘づけだった。時計なんかそっちのけだ。
顧問は六十近い、マッチ棒の燃えカスみたいなヒョロいおっさんだった。
「はじめ!」
顧問が叫んで試合が始まる。
炎天下のアスファルトに裸足で放り出されたみたいなドタバタした足捌きで先輩が打ち込む。
「エェーァアァァァアイッ!!」
ビシィッ!
上級生は竹刀で受け、鍔競り合いになる。ギリギリと竹刀を通して両者の力が拮抗しているかに見えた。
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