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「この灸はな、うちに代々伝わる門外不出の処方なんや。よう効くでえ。ボケとる爺さん婆さんもこの灸でしゃっきりするさかい。ほんまやで」
ようやっと終わったようで、先生がもぐさの燃えかすを取り除き始めた。ホッとした。
「次は背中側のツボやるでぇ。うつ伏せになり」
え゛え゛ええええ……(涙)
どうにか耐えに耐え、非人道的な拷問の時間が終わった。
山盛りの灸の痕が赤々と残ってしまったため、目立つ場所だけ手ぬぐいで冷やしている。先生は軽く火傷するくらいがちょうどいい、とすましているんだが限度があるだろ。先生、ドSかよ……
ん?
「どえす」って何だ?
「さて、鷲崎はん。ここで暮らしとるうちに何ぞ思い出したことはありますかいな」
先生が帳面を出して聞いてきた。
灸治療は血も涙もないが、先生自身は若くて人当たりがいい。優しい頼れる兄貴、って感じ。
「ええと……」
「どない小さなことでもええんやが」
「ううん……あ、」
「何や」
「前にもお灸でひどい目に遭ったような気が……」
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