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俺はこの人達の飯を作りに庫裏に来るだけで寝起きは寺の別な建物だし、彼らも夜は宿直の係を残してどこかに引き上げていく。本当は以前の暮らしぶりとか俺が飯炊きになったいきさつとか、詳しい話が聞きたいのだがなかなかきっかけがない。斎藤さんの話や皆の態度から察するに、そもそもそんなに親しくなかったのかもしれないな……凹む。
先生にもらった帳面をさっそく開くと真新しい紙の匂いがした。無条件にワクワクする感覚にも覚えがある。やっぱり俺、寺子屋や私塾のようなところに通ったことがあるんだろうな。
その時、背後にただならぬ「気」を感じ、とっさに振り向いた。
「隙ありいぃぃっ!!」
「わわわわわっ!!」
俺は慌てた。が、ガチの侍の動きに上手く反応できるはずもなく。振り下ろされた木刀は俺の肩でピタリと止まった――寸止め、ってやつ。
「うん。なかなかの動きだ」
逆光の中で顔を綻ばせたのが藤堂さん――俺を助けたもう一人の人。
俺は防御本能からとっさに持っていた筆を構えたらしい。刀と肩の間にそれが挟まっていた。
しばらく呆然として藤堂さんと顔を見合わせていたが。
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