207人が本棚に入れています
本棚に追加
「藤堂さんの隊服まで汚しちゃったじゃないですか」
「白だから汚れが目立つんだ。遠目にはどうか知らんが既にあちこち染みだらけだ」
藤堂さんは不機嫌そうに顔をしかめた。
「いちいち汚れを気にしていたら隊務など務まらん」
「でも、さすがに墨は目立ちますよ」
「墨の染みなど洗ったところでどうせ落ちんさ」
藤堂さんはそう言って羽織を脱ぐと外の手水鉢でザブザブ部分洗いを始めた……ワイルド過ぎる。
「それじゃかえって汚れが広がっちゃいますって!!」
藤堂さんは俺の言葉に構わずまだらに黒ずんだ羽織を肩に掛けた。そのまま乾かすつもりなんだろう。俺は着物の値段なんてよくわからないが、少なくとも安物には見えない……本当にいいのか?
「いずれ捕り物で斬り合いになったら血飛沫やら泥やらで墨の染みどころの話じゃなくなるぞ。いくら何でも隊服に白はない。局長は浅葱の羽織の件を知らんから」
藤堂さんが尊敬する伊東さんの愚痴を言うのは珍しい。
「浅葱の羽織……?」
「ああ、いや。大昔のことでな。新の知らぬ話だ」
藤堂さんは素っ気なく手を振った。とりあえずこの隊服があまり好きではない、というのだけはわかった。似合っているしカッコいいと思うんだが。
最初のコメントを投稿しよう!