見えるけど、見えない。

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ヒッキーだからといって外出しないわけではなく、 基本PCの前が「自分の生きる世界」ではあるけれど たまには外に出る。 外を歩いていると、ふとしたキッカケで 十代の頃に受けた様々な「髪の毛をかきむしりたくなる 嫌だったこと、恥ずかしかったこと」が頭に浮かんで それを消そうと、突然大きな声が出てしまったり、 小走りで逃げ出したくなったり、 いいことばかりではないけれど、 家の中で動かずにいると血行が滞るせいか もっと苦しい状態になることも少なくないので。 ところが、ある「現象」をきっかけに 完全に出られなくなってしまった。 「おい!気をつけろ!」 ぼさぼさ頭とスエットのまま コンビニの雑誌を立ち読みしに行った帰りだった。 どんと肩に何かにぶつかった感触があって、 俺の対極にいる存在で、天敵とも言うべき DQNっぽい粗野な物言いをぶつけられて あわてて「すす、すいません」と、しどろもどろで 頭を下げた先に、ぶつかった相手の姿はなかった。 「キモ男が!」 そう言い捨てて、その見えない男の気配と足音が 遠ざかる音だけが聞こえた。 何が起きたのか理解ができず、ついに頭がおかしくなったかと 慌てて精神科に駆けこんだ。 診断は「軽度の統合失調症」とのこと。 幻覚や幻聴は例のある症状だが、「透明人間の実存感」を 感じる症状は珍しいらしく、興味深そうに話をきかれた。 それだけだった。 そして、俺に起きた現象が俺だけではないことを ネットニュースで知った。 同じように、透明人間と遭遇した体験談が、日本各地で 次々と巻き起こったのだ。 ところがその「透明人間」は、実際には透明なわけでなく、 透明に見えているその人以外にはしっかりと見えている 普通に生きている人間ということだった。 つまり、俺がコンビニの帰りにぶつかった透明人間は そこに本当にいた人で、俺の目に映っていないという ことというのが、どうやら真相のようだ。 どうしてそんな現象が起きたのか、ネットを検索しても 自分のことを振り返っても、全く理解できない。 外に出るのが今まで以上に怖くなり、 この奇怪な症状の正体が何なのか、 同じ症例に陥った人たちの体験から、 自分なりに分析してみることにした。
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