見えるけど、見えない。

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自分が発症してから、瞬く間に一年の月日が流れたが ワクチンが開発される様子は一向に見えず、 もともと心が弱っていた感染者の一人が、 将来に絶望して電車に飛び込んだというニュースを見て、 常日頃そういう考えを持っていたので 引きこもりの上にこんな訳のわからないウィルスに感染して それでも生きて行こうなんてパワーもないし、 ああ、そうだ。自分もそうしようと、 何となくカッコイイからという理由で、コンビニで衝動買いして置いてあった 飲み慣れていないテキーラをあおり 風呂場にお湯を張って、大型のカッターを手首にあてがってみる。 横向きではなく、縦に切るのがより成功率の高い 自殺の方法だと、ドラマで観たことがあり 生白い手首に、カッターの刃を縦向きにあてがってみる。 自傷癖がある人間ではないので、なかなか踏ん切りがつかない。 何度か軽く切ってみて、よし一気にいこうと、 ぐっと力を入れて一息に切り裂く。 ビリリと鋭い激痛が走る。赤黒い血がしみだしてくる。 でも、ぶわっと噴き出すようなことはない。 力の入れ方が甘いのだ。 どうしても、そこから先にいけない。 恐怖で震える。嗚咽が止まらない。 結局、風呂場の床に落ちた血が完全に固まる朝まで 俺はこの世とおさらばすることはできなかった。 自殺に失敗し、どうにかこの病気と共に 生きていく方法を模索してみることにした。 俺が見えなくなった人間は、DQN的な人たち、 テレビのコメンテーター、政治家、 大人もしくは大人びた女性だった。 一つ目は自分とは育ってきた環境が違いすぎるから。 二つ目は偉そうに見えるから。 三つ目は平気で嘘をつくから。 四つ目は、ロクに女の子と会話したこともないので 単に怖いから。 自分なりに嫌いな、もしくは苦手な理由を 分析してみて、この人たちが「見えない」状態で どうすれば良いのか。 外に出なければいい。今している解決方法だ。 ネットさえあれば、生活費を稼ぐこともできるし あらゆる買い物も、家まで配達してもらえる時代だ。 しかし、それで本当にいいのだろうか? 引きこもりではあるが、家から一歩も出ない生活が 今後続くのかと思うと、それだけで憂鬱が加速しそうだった。
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