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「九条さん、あんたのことがよっぽど可愛いのね~」
大急ぎで修正をかけていると、突如私の耳元で、囁くようなハスキーボイスが聞こえてきた。
振り返るとそこには今日も強烈な化粧と、奇抜な衣装に身を包んだユリさんがいた。
「ユリさん……またそんな冗談を。逆ですよ、逆。私、九条さんに嫌われてるんです」
「何言ってるの。可愛い子ほどいじめたくなるって言うじゃない。本当はちょっと快感なんでしょ? 私もあのちょっと野獣っぽい顔でこれでもかってくらい罵られてみたいわ~」
そう好き勝手言ってふふふと、ニヤつく顔を両手で覆い九条さんを見つめるユリさん。
……いやいや、怖いですから。
ていうか、快感って。どんなドMだよ。
「私はユリさんが羨ましいです。いつもノーミスだし、信頼されているし。私みたいに怒られたりすることもないですもんね」
「そうなのよー。困ったことに才能の塊だから、私」
「うぅ……いいなぁ」
こっちは切実だというのに。
「ま、とりあえずがんばんな。若いうちは怒られてなんぼよ」
そう言ってユリさんは私のデスクにチョコと飴を置くと、お尻をふりふりしながら自分の持ち場へと戻っていった。
相変わらずの九条さん推しだなぁ。どこがいいのか、あんな仕事の鬼。
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