5449人が本棚に入れています
本棚に追加
「おばちゃん、さんま定食大盛りで」
お店の入り口で早々にそう叫ぶと、迷うことなくいつものカウンター席へと向かう。その瞬間、奥から出てきたおばちゃんが笑顔で迎えてくれた。
「青葉ちゃん、いらっしゃい。今日は遅かったね」
「うん、ちょっと急ぎの仕事が片付かなくて」
「相変わらず大変そうね。待っててね、今用意するから」
そう言って麦茶をだしてくれたおばちゃん。私はぷはーっと一気飲みすると背もたれにもたれた。
なんとか修正を終わらせ、九条さん送りつけてると、とりあえずごはん行ってきますと、逃げるようにここにやってきた。
どうせ午後からも怒られるんだ。それなら戦に備えお腹を満たすことが先決だ。
「はい、お待たせ青葉ちゃん。さんま定食大盛り」
するとすぐ、項垂れる私の前にいい香りを漂わせながらさんま定食がやってきた。しかも今日は私の大好きな梅かつおのお味噌汁付きだ。
「わぁい、待ってました! いただきまーす!」
私は飛びつくように箸をつけると、魚の骨をするりと抜き取り、ほぐした身をごはんといっしょに頬張った。
あぁ、生き返る。やっぱり人間の資本はこれだよな。
「ごはん最高ー!!」
「魚の食い方綺麗だな、お前」
一人悶絶していると突然、聞こえてくるはずのない声が耳に入ってきて、条件反射のごとく体が浮き上がった。
恐る恐る振り返ってみると、なぜか九条さんが私の背後に立っていた。
しかも顎髭をなぞりながら、私の手元をまじまじと見ている。
な、なんでここに?
最初のコメントを投稿しよう!