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「西沢」
すると完全に縮こまった私を、九条さんがオフィスで聞くあの低い声で呼んだ。
「は、はいっ!」
「お前な、そのいちいち萎縮すんのなんとかしろ。気分悪い」
き、気分悪いって!
じゃあどっか行けよ!他の店に行け!だいたい萎縮するなってほうが無理。その顔も、その口調も、もうあなたの存在自体が怖いんだから!
……なんて心の中で威勢よく叫ぶだけで、口が裂けても言えない私は、小さくすみませんと謝った。
「さっきの乳首の色、よかった。とりあえずあれでいく」
「あ、ありがとうございます!」
よかった。OKもらえた。ていうか、もうチェックしたんだ。さすが、仕事が早い。
「わかってると思うけど、後でアソコのほうも綺麗にしとけよ」
「は……はい」
ピンクですね、ピンク。
「体毛はないほうがいい」
「わかりました」
指示されたことに淡々と頷く。すると、周りからヒソヒソと話す声が聞こえてきた。
不思議に思い視線を上げ見渡すと、やだぁと言いながらこっちを見て笑うOL風の二人組や、本の隙間からチラチラとこっちを盗み見ている学生風の男性が目に入った。
それにテーブル席では聞いちゃダメよ、と子供の耳をふさぐ親子の姿。
そこでハッとした。なんつー会話だ。これじゃまるで……
「あ、あの。違いますよ? し、仕事の話ですから」
焦った私は立ち上がって慌てて言い訳をした。
でもそれが逆に白々しかったのか、一斉に目を逸らされてしまった。
……やだもう。これじゃ変態カップルみたいじゃない。
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