第1章 口下手の正体

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♪「間も無く急行電車が参ります~危ないですから黄色い線の内側でお待ちください」 静かなホームにアナウンスが流れた 僕は疲れた足で駆け寄ったが電車のスピードまでは追いつけなかった。 電車は鈍い音をして止まった 20分もしたら電車の周りに駅員さんや近くの警察も集まって来た。僕は第1発見者として警察の方の事情聴取に淡々と答えていった 「なんで簡単に死んじまうんだよ」 誰もいない夜に呟いた 夜も遅いので警察の人が送ってくれるそうだ それまで駅の改札の中でしばらく待っていた。 「あ、あの時のギターの子?」 聞き覚えのある声がした? 間違いなく楽器屋にいた結さんだ 「どうしてここにいるのですか?」 「実はこの辺住んでいてね、電車降りたあと急にホームの端に走っていく人の姿をみて、楽器屋でギター弾いていた子だなって思って声かけたんだよ」 しばらく沈黙が流れる 「なんで飛び降りたんですかね?話聞いていたら20代前半で、大手上場企業に就職して、若いのに奥さんもいたんですよ、人生の成功者じゃないですか?」 結さんは少し笑って言った 「糸が切れちゃったんじゃない?やっとのやっとで繋いできた生活とか仕事、愛情の糸」 僕は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を 思い出した 地獄に落ちたカンダタが生前に一度蜘蛛を助けたという善行を思い出した釈迦がカンダタに天から糸を垂らした。 しかしカンダタが「この糸は自分のものだ」 そう呟いたら真上で糸が切れてしまった 僕はカンダタだ。たった一回のチャンスを自分のわがままとか性格、意欲がないせいで全部ダメにしてしまう 僕のこみ上げていた感情が溢れてきた 僕の悪い口から 「飛び降りたいのはこっちの方だよ!糸が切れただよ、高3の俺にはわかんねえよ。親も先生も友達もわけわかんないことばっか抜かしやがって、暴力を振るってるのに笑って過ごしてるやつはいるし、先生に媚を売ってうまくやってる奴もいるし、みんなほんとにやりたいことをやってるのかわかんねえよ、これ以上僕が頑張ったって傷つくだけなんだ。もう生きてくのはこりごりだよ」 無自覚にも涙が溢れてきた 警察の人が呼びに来た、時間だ もう結さんには2度もこんなこと言っちゃったし嫌われたな、バカだな俺 「そんな強い気持ちがあるんならバンドやろうよ、パンクロック、正樹くんには合うと思うよ」 風が線路の脇を強く駆け抜けた
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