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ガラス張りのロビーにはすっかり日が落ちた街路に灯されたイルミネーションが一面に広がっていた。
でも私はきらびやかな眺めに見とれることなく床に視線を下げ、黙々とロビーを横切った。
ガラス扉を抜けると北風がコートの裾をはためかせ、凍えるような冷気が薄いスカートの下の脚を這い上がってくる。
今日は居眠りしませんでしたよ。
ほら、報告書だって完璧です。
セミナーの前、彼に会えたらと張り切っていた自分が、告げるはずの台詞とともに木枯らしに散っていった。
会社の敷地を抜けたところで私は立ち止まり、バッグから携帯を取り出した。
電源を入れ、画面を見ずに夜空を仰ぐ。
携帯は沈黙したまま、何の着信も知らせて来なかった。
単に彼がまだメールを見ていないのか、それとも優先順位の低さから返事を後回しにされたのかは考えないようにして、私は再び駅に向かって歩き始めた。
真夜中に電話できる関係。
下の名前で登録する関係。
ビジネスだけのはずがない。
ほら、彼を好きにならなくて良かった。
私が好きなのは東条主任なんだから――。
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