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メールを送信した直後、開け放した前のドアからようやく皆川さんが入ってきた。
もう開始直前で、ホールはほぼ満席だ。
いつ彼に見られてもいいように姿勢を正し、今日は眠くなんかありませんよと顔を引き締める。
張り切り過ぎも恥ずかしくて目立たないよう真ん中より少し後ろの席を選んだけれど、彼は気づいてくれるだろうか。
彼は一人ではなく、若い男性と、あともう一人、同年代の女性と一緒だった。
演台の脇で言葉を交わしている様子を観察するに、どうやら若い男性は彼の部下で、女性は今日の講演者らしい。
まもなく開始時間となり、男性社員が司会席にスタンバイすると、皆川さんは女性に軽く笑顔を向けてからホールの最後列へと移動した。
彼はまだ私を見つけていないようだ。
講演者と一緒にいたなら、あのタイミングではメールは見ていないだろう。
このセミナーが終わった時には見てもらえるだろうか。
そう思うと急に怖くなってきて、メールを取り消したくなった。
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