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壇上では自己紹介からセミナーの導入部分が始まったので、気持ちを切り替えて講演に集中する。
今日の講演者は大手化粧品メーカーで開発チーフを務める女性だった。
私より少し年上なだけなのに、華々しい実績を積んでいるらしい。
それでいて、女らしい色香も漂っているのが遠目でもわかる。
同じ三十年程度の人生でどうしてこうも差が出るのだろう?
数年後に私があんな風になれるとは、とても思えない。
最近の私は近視眼で、堀内嬢のことばかり意識していたけれど、あれはかなり低レベルな争いだったんだなと自覚する。
溜め息をついて手元の紙に視線を戻したその時、私の呼吸が一瞬止まった。
“仁科香子”
手元資料の講演者名にそう書いてあったのだ。
再び視線を前方に移す。
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