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この女性があの“香子”だとは限らない。
特別珍しい名前という訳ではないはず。
そう打ち消しても、私は彼女から視線を外すことができなかった。
年齢は皆川さんと同じぐらいで、女性として若いとは言えない。
堀内さんのように、とびきりの美人という訳でもない。
でも、それが逆に脅威に思えた。
講演の間、私は彼女の言葉ひとつ漏らさぬよう、食い入るようにして聞いた。
業界内の熾烈な情報戦。
オフの時間も常にアンテナを張り続ける開発者としての姿勢と情熱。
聞けば聞くほど触発される一方で、劣等感や焦りが募り、何ともいえない複雑な気分になった。
堀内さんのようなタイプの女性だったなら、こんな風には落ち込まなかったかもしれない。
彼女には外見だけでなく、内側から滲み出る品格と色気があった。
私は女としても仕事でも、到底この人には敵わない。
勝負にすらならない。
彼のお相手がこの女性ではありませんように――。
そう願ってしまう自分を直視できず、私は必死にメモを取り続けた。
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