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講演が終わると質疑応答のあと、セミナーは閉会となった。
エレベーターホールへと流れ出す人波の傍らで、彼が仁科香子さんと言葉を交わしている。
その脇を通る時、彼と目が合った。
メールにはもう気づいただろうか?今となっては本気で消してしまいたかった。
にこりと唇の端を上げた彼に笑顔を作って小さく会釈を返すと、それ以上の反応を見届ける勇気がなくて、人波に紛れてそそくさと通り過ぎてしまった。
エレベーターの到着を待つ列に並びながら振り返ると、期待に反して彼はこちらに注意を払う様子もなく、彼女と話し込んでいた。
……そりゃそうだよね。
中途半端に期待する自分を自嘲しながらエレベーターに乗り、ロビーに降りる。
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