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すっかり蕩けてしまい、我を忘れた頃、彼が唇を放した。
「……キスが始まればいいんですが」
息を切らして彼を見つめる私に、すれすれの距離で彼がコメントした。
なぜすれすれかというと、夢中になるあまりいつのまにか私の両手は彼の髪を握りしめ、はしたなくぎゅうぎゅうと引き寄せていたからだ。
「す、すみません!」
言葉の続きを待っていた私はそのことにはたと気づいて、慌てて彼の髪を放した。
「不意討ちでない限り、男にはノーチャンスですね。ガチガチに緊張しているか、男の存在を完全に忘れているかで」
ようやく私から解放された髪を片手で直しながら、彼が身体を起こした。
「……すみません」
彼の下で小さくなる。
「でも、普通にしててもそういう雰囲気にならないし。色気がないから仕方がないかと」
実技はこれで終わりだと悟り、それを物足りなく思う自分を振り切って私も身体を起こした。
「色気というより、隙ですね」
彼はソファーに座り直し、意地悪く笑った。
「隙だと思うものをやってみて」
「そ、そんな」
突如投下された無理難題に首を横に振るも、彼はすでに待機状態で有無を言わさぬ雰囲気だ。
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