ざわめく心ー1

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すっかり蕩けてしまい、我を忘れた頃、彼が唇を放した。 「……キスが始まればいいんですが」 息を切らして彼を見つめる私に、すれすれの距離で彼がコメントした。 なぜすれすれかというと、夢中になるあまりいつのまにか私の両手は彼の髪を握りしめ、はしたなくぎゅうぎゅうと引き寄せていたからだ。 「す、すみません!」 言葉の続きを待っていた私はそのことにはたと気づいて、慌てて彼の髪を放した。 「不意討ちでない限り、男にはノーチャンスですね。ガチガチに緊張しているか、男の存在を完全に忘れているかで」 ようやく私から解放された髪を片手で直しながら、彼が身体を起こした。 「……すみません」 彼の下で小さくなる。 「でも、普通にしててもそういう雰囲気にならないし。色気がないから仕方がないかと」 実技はこれで終わりだと悟り、それを物足りなく思う自分を振り切って私も身体を起こした。 「色気というより、隙ですね」 彼はソファーに座り直し、意地悪く笑った。 「隙だと思うものをやってみて」 「そ、そんな」 突如投下された無理難題に首を横に振るも、彼はすでに待機状態で有無を言わさぬ雰囲気だ。
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