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私に釘を刺すのは彼の態度だけではなかった。
彼との会話や、優しい素振りを見せてくれたことを思い返す度、心の隅から“香子”と表示された画面の記憶が浮き出てくる。
女子力のない私にも、こういう時だけは何か女の勘めいたものが働くらしい。
あれはただ者ではない、と心がさわぐのだ。
でも、彼には聞けなかった。
あの夜、勝手に電話を切ったことを白状しなければならないから。
私が聞く立場にないから。
もしかすると、聞いてショックを受ける自分を目の当たりするのが怖いのかもしれない。
どれだけ皆川さんが自信をつけようとレクチャーしてくれても、それはあくまでも生徒に対するものでしかない。
最初から無理だとわかっているなら、わざわざ踏み込んで新たな傷を作りたくなかった。
そんな中、思わぬ時に私は「香子」の名前を見ることになった。
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