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迫田くんが私の頭上を見上げて真顔になったので、何だろうと私もつられて顔を上げた。
首が痛くなるほど高いところから銀縁メガネが私と迫田くんと、それからビールやカクテルが散らばるテーブルを見下ろしている。
思わず目をこすったけれど、悪夢のような眺めは変わらなかった。
でも、最悪なのに嬉しいと思ってしまうのはなぜだろう?
「お取り込み中失礼します。江藤奈都の“影の薄い彼氏”、皆川と申します」
肘を引き上げられた私は、操り人形のように立ち上がった。
「ちょっと僕の彼女をお借りしますね。すぐに戻ります」
腕を引っ張られつつ茉由子を見ると、ポカンと口を開けた間抜けな顔で見送っている。
実は単なる飲酒の現行犯逮捕なんだけど、見送る三人の目にはそう映っていないだろう。
今から皆川さんにどれだけ絞られるか考えたくない私は現実逃避して、これは茉由子に皆川氏との事情を白状しないといけないな、レッスン受けてることまでは言いたくないなと、連行されながら考えた。
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