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店に入ると、彼は個室席とオープン席に分かれる通路の手前で足を止め、私を振り返った。
「くれぐれもあの蠍男と二人きりにならないように」
どうやら迫田くんのことを激しく誤解しているらしい。
「いやいや、あの人すごくいい人だし、下心なんかないんです。それにもてるだろうから、そこまで不自由してないかと……」
迫田くんの名誉のため弁護を始めるとすごい顔で睨まれたので、私は小さくなって口をつぐんだ。
「あなたのその油断を心配してるんです。前科があるでしょう。一肌でなく服を脱いだ前科が」
「……すみません」
ほら来た、嫌味。
一度はスルーした“一肌脱ぐ”をきちんと引っかけてくる執念深さといい、そっちの方が蠍っぽい。
出会いが最悪なせいで、まったく信用がないのだ。
「では」
彼は私にお説教を終えると、あっさりと背中を向けた。
こんな会話で終わったらキスが台無しだと思っていると、彼が二、三歩進んでからもう一度振り返った。
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