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ところが二時間後、私は惨めな気分でハンドルを握る彼の長い腕を眺めていた。
なぜ今日は何もなかったんだろう?
食事の間も、食後のコーヒータイムにも、会話はいつも通りなのに、彼は私にまったく触れようとしなかった。
ソファーで隣に来ることすら。
年末のキスからどうして急降下したのか、いくら考えてもその理由がわからない。
もうレクチャーが面倒になった?
目的達成間近で私は用済みになった?
それとも、私の気持ちに気づいて重たくなったのだろうか。
もうじき自宅に通じる最後の曲がり角にさしかかるという時、しばらく黙っていた彼が口を開いた。
「夕方、東条主任と一緒でしたね」
「え……、はい」
少しギクッとして視線を前方にそらした。
「一緒に給湯室から出て来られたのを見たので」
「一緒といっても仕事でいつも一緒なので別に特別なことは……」
あの会話を交わした不安から、言い訳のような口調になった。
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