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彼の勘がいいのか、私の態度にボロがありすぎるのか、話の成り行きを戦々恐々と待つ私に、彼は一番触れてほしくないことを尋ねてきた。
「彼とは何か進展がありましたか?」
建前上それが私の目的なんだから、彼にしてみれば当然の質問だ。
でも、グサリと胸に何かが刺さったような気がした。
彼に他の相手との恋愛をそそのかされること。
最初はそれで話に乗ったのに、今となっては身売りするような侘しさがある。
「……いいえ。何も」
嘘が苦手な私は、声がぎこちなく上ずってしまった。
でも、堀内さんと東条主任が別れたことを告げてしまったら、皆川さんと会う理由がなくなってしまう。
「そうですか。少し雰囲気が違って見えたので」
「主任とは、あの、ただ、マグを洗ってました」
今度のは嘘じゃない。
守りを固めて反応を待ったけれど、どうやらこの話題は終わったらしく、彼の返答はなかった。
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