恋か、忠誠か-2

9/25
前へ
/25ページ
次へ
彼はなかなか話し出さない。 ずっと好きだった人とこんなに近い距離にいることに、急に胸が詰まるような感覚に襲われた。 これが好きという感情でありますように。 主任とうまくいく訳ではないのに、私は主任を好きなままでいたかった。 皆川さんを好きになったら、今よりもっと傷つくから。 急な流れに逆らうように、自分の中で見えなくなっていく感情にしがみつく。 「今日はあの彼と会うの?」 マグを渡されるのと同時に、主任が口を開いた。 泡の下で主任の指に触れてしまいそうで緊張する。 「……はい」 「じゃあ、今日は駄目か」 主任が独り言のように苦笑して、次のマグを洗い始めた。 「飲みに誘おうと思ったんだよ」 「……堀内さんも一緒ですか?」 さりげなく聞けたのか自信がなく、マグの水を切る動作がやたらにオーバーアクションになった。 「いや」 短く答えたあと、少しの間を置いて、主任が続けた。 「彼女は来ないよ」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1591人が本棚に入れています
本棚に追加