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タイミングよくホームに滑りこんできた電車にも背中を押され、三十分後、私は東条主任に失恋したあのレストランの前に立っていた。
深呼吸をして辺りを見回す。
スタートはここからだ。
ここから駅に向かって歩いて、早くあの二人の視界から消えようと確かその角を曲がって、それから……。
あやふやな記憶をたどり、何度もビルの景色を見上げて手がかりを探して歩き回った。
でも、夜の繁華街はどこもかしこも同じに見えて、まるで海の中で探し物をしているようだった。
彼の家まで走ったせいで、履き慣れたヒールでもつま先と踵がずきずきと痛んでいた。
寒さが身に染みて、くじけそうになる。
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