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「あの、これは練習じゃありません」
私ったら、これしか言えないのだろうか。
「……」
「皆川さんの気持ちを知って、そのうえで……その……」
“抱かれたい”は恥ずかしすぎて口ごもった。
「そのうえで、何ですか?」
真っ暗だから表情は見えないけれど、絶対彼は余裕で笑っているに違いない。
わかってる癖に意地悪く聞き返してくる彼に腹を立て、ここまでくれば恥も何もないと、半ばヤケクソで叫んだ。
「抱かれたいんですっ」
プッと吹き出す音のあと、顔中に優しいキスが降ってきた。
「可愛い」
誰かに可愛いなんて言われたことはない。
まして、好きな人に。
硬直している私の襟元が開かれ、首筋を彼の唇が柔らかく撫でた。
「僕は今まで、誰かに好きだと言ったことがありません」
それは拒絶のようでいて、少し照れたような、決まりの悪そうな声だった。
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