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店を出ると、私は駅まで一目散に走り出した。
勢いを失わないように、勇気が途切れてしまわないように、身体をいじめるようにして走った。
目指すのは彼の部屋。
こんな突撃をしたら迷惑かもしれない。
もう既に香子さんと一緒に住んでいるのかもしれない。
でも、そんなことを考えていたら、これまでの私から変われない。
あの二人の絆が強固なら、平凡女の来襲なんて蚊が一匹飛んできた程度のものだろう。
平凡なナツ。
もてないナツ。
みっともないナツ。
守りたいものなんて、私にはない。
門前払いされても、冷たくあしらわれても、このままさよならをするぐらいなら構わない。
お店はあいにく帰宅経路とは違う路線沿いだった。
車内でも走り出したいぐらい気が逸る。
電車を乗り換え、皆川さんの最寄り駅に着くと、まだ冬の寒さを残す夜空の下を走り出した。
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