もう一度、あなたに逢えたらー1

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しばらく携帯と名刺を両手に持って迷った末、私はそれらをバッグにしまった。 仕事に厳しい彼に迷惑をかける行為だけはしたくなかった。 このまま待つしかないのかとエントランスホールで考えていると、帰宅してきた住人に怪訝そうな目でじろじろと見られた。 ストーカーに見えるんだろうなと思うと彼に恥ずかしくて、足を引きずりマンションを出た。 冷え込んだ夜の空気に震えながら駅まで戻り、改札の前でぼんやりと立ち尽くす。 勢いで走り回った疲れが今ごろになって出てきて、へたりこみたくなる。 私の自宅の方面へ向かう列車が何本も通り過ぎていく。 もう、諦めて帰ろうか……。 ただ思い立っただけ。 ただ私の誕生日だという勝手な盛り上がりだけで、今日彼に伝えなければならない理由はどこにもない。
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