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勇者
某老人ホーム
既に意識もないのであろう、その老人は、白い天井の一点を見詰め瞬きさえもしない。医者が、弱々しいが必死に鼓動する心臓停止を待ちきれず死亡診断書を書き始める。
年齢・88歳
死因・多臓器不全・認知症あり
プップップッ プー電子音の無機質な鼓動が停まり、職員に看取られ孤独な老人が今、長い旅路を終えた。
手を合わせ、担当のヘルパー達が片づけながら言う「おじいちゃんいい死に顔だったね」
「おじいちゃん呆けてワシは勇者だ! なんて言ってたからね、いい夢を見てたんだよきっと」
「仲間を助けに行くんだ! なんてね」そう言って若いヘルパーが笑った。
心臓停止から5分、老人の脳細胞は完全に死滅する。やがて老人の魂は肉体を離れ、空へと昇って行った。空を宇宙を時空を突き抜け高く高く昇ってゆく。
さぁ冒険の始まりだ!
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