夏訪れるもの

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夏訪れるもの

 ギラツク太陽、陽炎に揺れるアスファルト、遠くに光る海、また夏がやってきた。もう何度目の夏だろうか。  この日、彼女に子供が生まれた。病院の白い壁が夏の日差しを浴びて眩しい。随分と大人びた彼女の笑顔は女から母へと変わり、赤ん坊を見詰める眼差しが優しい。  俺と付き合った月日彼女のまなざしは煌いていた。俺に抱かれる彼女は幸せに満ち溢れていた筈だった……。  バイクのけたたましい排気音、アスファルトの匂い。  傍らでなす術も分らずおどけている親友、こいつは不器用だが悪い奴じゃない。きっと君とこの子を幸せにするだろう。 夏の日の光の中で悲鳴をあげるタイヤの音、間近に迫るアスファルトの牙、香るのは擦られたゴムと焦げた金属、そして血の匂い。 あぁぁ。また夏が来る。次もその次も訪れる――もう夏なんてなくなればいいのに……。
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