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その瞬間、ぷんと、いやな匂いが鼻についた。
わたしの体は、くさっている。
とうぜん、わたし自身が臭気を放っているはずだ。
しかし、嗅覚をつかさどる細胞も、多くは死んでいる。そのせいで、ほとんど匂いは感じない。
そのわたしが、匂いを感じた。
よほど強い臭気だ。
わたしはドアの内を見るのが怖くなった。
この匂いの正体を知ることが、怖い。
でも、見なければ、謎は解けない。
今、ここで何が起きているのか。
それを知るためには、少しでも情報がほしい。
わたしは、そっと、ドアの内をのぞいた……。
あやうく、悲鳴をあげるところだ。
(なんだ! これはーー?)
信じられないような光景が、そこにあった。
死体だ。死体の山。人間の死体が、数えきれないほど、ころがっている。
たしかに、ここは死体置場だ。
死体があるのは、とうぜんだ。
でも、それは、ふつうの死体じゃない。
全部、研究員だ。
白衣を着た男女が、一室に集められ、死んでいる。
頭部が、みごとに切断されていた。
(殺されたんだ。アマテラスに)
わたしは、そう確信した。
このなかに、わたしの死体もあるかもしれない。
わたしは探した。
なつかしい、自分の体を。でも、そこに、わたしの体はなかった。
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