そして、神は降臨する

7/17

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
にごった視界を、何かが、よこぎった。 目だけを動かし、そっちを見る。 ほっとした。 なんだ。ただのネズミだ。 死体置場なんだ。ネズミくらい、いるさ。 そう思い、わたしは起きあがろうとした。 が、次の瞬間、ギョッとした。 ちがう。ネズミじゃない。 もっと大きな黒い影。 それが、視野の端を、かすめて通る。 (やっぱり、何かいる!) ただ、じっと、影が通りすぎるのを待つほかなかった。 その影は、かなり大きい。 人か? いや、でも、何かが、おかしい……。 長い時間だった。 じっさいには、ほんの数分だったろうが、わたしには数時間にも感じられた。 ようやく、気配が消えた。 あの足音が遠ざかる。 今のは、なんだったのだろう? わたしは慎重に起きあがる。 ここに、何者かが、ひそんでいるのは、もはや確実だ。 しかも、そいつは、わたしの首をはねた。 凶暴な殺人者だ。 (まあ、今のわたしは死体だが。人間から見れば、バケモノだ) 思わず、自嘲がもれる。 カベに体をそわせながら、わたしは歩いていった。なるべく、遠くにいる者に、わたしの姿が目につかないように。 いくつもの廊下が交差する、碁盤目状の場所に出た。 廊下の両わきに、たくさんのドアがならんでいる。     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加