20人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
にごった視界を、何かが、よこぎった。
目だけを動かし、そっちを見る。
ほっとした。
なんだ。ただのネズミだ。
死体置場なんだ。ネズミくらい、いるさ。
そう思い、わたしは起きあがろうとした。
が、次の瞬間、ギョッとした。
ちがう。ネズミじゃない。
もっと大きな黒い影。
それが、視野の端を、かすめて通る。
(やっぱり、何かいる!)
ただ、じっと、影が通りすぎるのを待つほかなかった。
その影は、かなり大きい。
人か?
いや、でも、何かが、おかしい……。
長い時間だった。
じっさいには、ほんの数分だったろうが、わたしには数時間にも感じられた。
ようやく、気配が消えた。
あの足音が遠ざかる。
今のは、なんだったのだろう?
わたしは慎重に起きあがる。
ここに、何者かが、ひそんでいるのは、もはや確実だ。
しかも、そいつは、わたしの首をはねた。
凶暴な殺人者だ。
(まあ、今のわたしは死体だが。人間から見れば、バケモノだ)
思わず、自嘲がもれる。
カベに体をそわせながら、わたしは歩いていった。なるべく、遠くにいる者に、わたしの姿が目につかないように。
いくつもの廊下が交差する、碁盤目状の場所に出た。
廊下の両わきに、たくさんのドアがならんでいる。
最初のコメントを投稿しよう!