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急斜面を下った先には砂漠が広がっており、ガルーは駆け下りようとしたが、マントをぐいと引かれて首がしまった。
「なんだっ、今度は?!」
「あ、いや・・・背中が・・・」
青い顔で、若者が手を引っ込める。
ゴニョ、と口の中で何か言ったが、ガルーには聞こえなかった。
若者がぶるっとひとつ頭を振る。
「なんでもない! あ、けど、なんか寒くねぇ?」
「当たり前だ。陽がもうすぐ完全に落ちる」
若者が目を丸くした。
「あんたまさか、昼は尻焦げるくらい暑くて夜はクソ寒いとか言わねーよな?」
「分かってるなら、早く来い。マントは貸してやらんぞ」
うわひでー、と文句たらたらの若者を無視して、ガルーは砂上を進んでいく。くらりと頭が重く揺れて、血濡れた背中を冷たい感覚がすべり落ちる。
砂漠は砂丘の連なりが地平まで続いており、濃い影の揺らめきが波のようで、黄味の強い金と銀をまぶした黒のたゆたうそこは、まさしく砂の海だった。
「少し行くと砂丘の向こう側に窪地がある。そこで夜をやり過ごす」
「夜をって。オアシスに着くのは明日?」
「さあな。オアシスが見えさえすれば、すぐに着く。見えぬ間は着くことはない」
マジかよ、と猫背になった若者の背を叩き、ガルーは若者を前に進ませる。
しんと冷気に沈んだ夜。
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