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「死にたいなら、今すぐそうしろ。おまえのようなアホウを無事に帰してやるのは難しい。途中でくたばったら俺の苦労が報われん」
うう、と涙目で呻く若者を見下ろして、ガルーは舌打ちした。
「面倒だな。おまえ、ちょっとソコから飛んでみてもいいぞ」
ソコだ、とガルーが指さした先を見て、若者はぶるっと首を振ってから猛烈な抗議をとばした。
「あんた、鬼か?! たった今、あの崖を死ぬ思いで登ってきたばっかじゃん! フツーに腕パンパンで太ももシビれてるし、喉カラカラになんの分かるだろ?!」
「ギャーギャー泣き喚いたおまえが悪い」
「はあ?! あの状況で泣いたからって俺は恥ずかしくねーからな! 落ちたらサヨナラとかマジねーし」
「やかましい。飛ばんのなら、黙ってついてこい。この岩山で夜を迎えたら、飛ばなくても死ねるぞ」
え、と若者がまた目をくりっと大きく見開く。
「なに、ちょ、さらっとコワイこと言うのやめろって」
はあ、とガルーは溜め息をついて、鞘に戻したダガーを腰ベルトに突っ込んだ。バサリとマントを翻す。
遥か下方が白く煙る崖に背を向けて、「来い」と指で若者を招いた。
張り出した岩が頭上を覆う岩山に向かう。
だが足音が聞こえない。
(・・・・なぜついてこない?!)
ぐるんと振り向いたガルーは、佇む若者の背を見た。
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