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彼は柔らかな黒色の、肩部分がカチッとした上下揃いの服を着ている。この年代の者がよく身につけている衣服で、ガルーは嫌いではなかった。
少々だらしのない、けれど柔軟でしなやかな中身を包みこんで、ピンと背筋を伸ばしてやっている。
この時も、崖を見つめる若者の背を、ベシャリとくずおれないよう支えてやっているように見えた。
ガルーは、ゆっくりと金の瞳を閉じて、ふたたび静かに開くまでの、ほんの一呼吸の間を若者にくれてやった。
若者は、すぐにでも前を向いて、先に向かうべきなのだ。ここで時間を食えば、彼の命はガツガツと削り落とされていく。
ガルーのいる意味がない。
「押してやろうか」
ガルーの低い声に、若者がハッと振り向く。
「いっそ蹴り落とせば、俺もせいせいするかもな」
「行くよ! 行きますっ! おっかないヤツだなあ」
駆け寄ってきた若者がガルーを見上げる。恨みの色が浮かぶのを見たくなくて、ガルーは顔をそむけた。
しばらくは、なだらかな坂が続く。光沢のある白と茶のマーブル模様の壁を、若者がほえーっと見回しながらついてくる。
おい、と声をかけようとした時にはもう、若者はつるっと滑り、振り返ったガルーの胸に飛び込んできた。みぞおちに頭突きをくらって、うっと息が詰まる。
「・・・くそ、子供かおまえは」
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