月光のガルー

4/21
前へ
/21ページ
次へ
彼は柔らかな黒色の、肩部分がカチッとした上下揃いの服を着ている。この年代の者がよく身につけている衣服で、ガルーは嫌いではなかった。 少々だらしのない、けれど柔軟でしなやかな中身を包みこんで、ピンと背筋を伸ばしてやっている。 この時も、崖を見つめる若者の背を、ベシャリとくずおれないよう支えてやっているように見えた。 ガルーは、ゆっくりと金の瞳を閉じて、ふたたび静かに開くまでの、ほんの一呼吸の間を若者にくれてやった。 若者は、すぐにでも前を向いて、先に向かうべきなのだ。ここで時間を食えば、彼の命はガツガツと削り落とされていく。 ガルーのいる意味がない。 「押してやろうか」 ガルーの低い声に、若者がハッと振り向く。 「いっそ蹴り落とせば、俺もせいせいするかもな」 「行くよ! 行きますっ! おっかないヤツだなあ」 駆け寄ってきた若者がガルーを見上げる。恨みの色が浮かぶのを見たくなくて、ガルーは顔をそむけた。 しばらくは、なだらかな坂が続く。光沢のある白と茶のマーブル模様の壁を、若者がほえーっと見回しながらついてくる。 おい、と声をかけようとした時にはもう、若者はつるっと滑り、振り返ったガルーの胸に飛び込んできた。みぞおちに頭突きをくらって、うっと息が詰まる。 「・・・くそ、子供かおまえは」     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加