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「わ、悪い、すべった。ってか、ツルツルの靴でツルツルの道歩くのがムリあんだろ。なんか出てきたりしねーの? あんたが履いてるみたいなゴツいブーツとか」
若者がガルーの足元を見て言う。底に鋲を打ち込んであるブーツが羨ましいらしい。ガルーはもう言い返すのも面倒くさくなって、わしゃっと若者の髪をかき混ぜた。
「慎重に歩け。次は突っ込んできても避けるからな」
「ええ? 薄情だなー」
「歩け」
ガルーの低い脅しに、若者はハイハイと返して岩に手をつきながら進んで行く。
天の黄金がだいぶ傾いた頃、「ああーあ」と鳴き声が聞こえて、ガルーは舌打ちした。
(もう出てきたか)
ああー、ああーあ、といくつもの鳴き声がわんわん反響する。
「なに、なんの声?! うわ俺コレ、すげーヤな予感しかしねーんだけどっ」
「黙れ。足を動かせ!」
きょときょとする若者の二の腕を取って、ガルーは引きずる勢いで駆けた。
「おわわ、すべっ、すべるっ、あででででっ」
やかましい、と心の中で怒鳴りつけ、坂道を駆け抜けて、岩山の最初の高い壁を若者の尻を押しながら上へと登っていく。
「また登るのかよ!! これっ、3階分くらいはあるんじゃねーの? しかも岩あつっ、ヤケドするってー」
ぴぃぴぃ言いながらも、しゃがれた鳴き声がよほど怖いのか、若者はせっせと傾斜のある岩壁を登っていく。
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