月光のガルー

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また騒ぎ出した若者に、ガルーは「今度はなんだ」と冷めた声で訊いた。 「下っ! アレって水じゃん。あんた、崖と岩山と砂漠越えたらオアシスって言ってたよな? なんで砂漠に川流れてんの」 「知るか。あそこの水が飲みたいなら飛べ。それで俺の今回の仕事は終いだ」 「はあ? ヤル気ねぇサラリーマンかよ。も少し親切に頼むって。っつうか、てっぺんはどこだよ」 ああーおぉ。 「ああっ?! や、ヤバい、あんた後ろっ! 来てるってー!!」 ガルーはぐいと若者の背を押しやり、太い出っ張りの上でダガーを抜き放った。 「や、やられるなよ? 俺困るからな?!」 「俺に死なれたくなければ行け。無心で登れ!」 「分かった! 俺怖いから先行くな!」 いっそ清々しいまでのヘタレっぷりに、ガルーは座り込みたくなった。 いつもこんなものだが、護って怪我した自分が間抜けに思える。 蛇トカゲが、横合いから岩壁を這ってきてガルーの手前で飛んだ。ガルーは身をかがめて、蛇トカゲの白い腹に下からダガーを突き刺す。脚でその腹を蹴った勢いでダガーを引き抜いたが、ザクッと前肢に肩を裂かれてよろめいた。不安定な足場から落ちないよう、岩壁に手をつく。 その手をギュッと押さえる手があって、ガルーはパッと振り向いた。     
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