狂気の末路

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噛まれた・・・・・・! 何てことだ・・・・・・ 妻に噛まれた。 いや、あれはもう妻じゃなかった。 人の形をした獣だった。 だから俺は撃った。 妻を。 いや、妻であった狂気の獣を。 エミリオを逃がすために俺は獣を殺した。 エミリオ・・・・・・! そうだ。 獣に噛まれ感染した俺に出来ることは、息子が無事逃げられるよう最善を尽くすことだ。 自害・・・・・・ーー 最も有効的な手段だ。 この俺が発症し獣に変貌する前に、自ら命を断てばいい。 汗ばんだ手で握りしめていた拳銃に視線を落とす。 簡単だ。 愛する息子のためだ。 怖くはない。 血にまみれたキッチン。 床に広がる赤黒くぬるぬるとした血液に足を取られながら、食卓の椅子を引き座る。 テーブルに両肘をつき、拳銃を自分へ向け固定する。 きつく目を閉じ、口を開け、冷たい銃口をくわえた。 手が小刻みに震え出す。 銃口が歯にぶつかり、カチカチという耳障りな音がキッチンに響いた。 荒く苦しい呼吸と嗚咽で、口腔内に熱がこもり出す。 舌に感じる無機質な金属の冷酷さ。 エミリオの・・・・・・ エミリオのことだけを考えろ。 あいつは俺にとっての全てだ。 何も恐れることはない。 親指を引き金に掛ける。 すぐだ。 痛みもない。 妻のように人間性を失った狂った獣になることもない。 引け!! 今すぐ引け!!
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