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ついさっきまでぐったりと横たわっていたとは思えない力だった。
腕や肩に掴み掛かられ、俺の体に噛みつこうとしてくる。
「やめろぉッ!」
揉み合いになりながらも必死にそれを払いのけ、僅かな隙が生じた瞬間、ジーンズの後ろポケットに差し込んであった拳銃を取り出した。
緊張と混乱で震え、上手く動かぬ俺の手。
落としそうになりながらも両手で握りしめ、重く硬い撃鉄を起こす。
この距離だ。
突きつけるように撃てば外すことはない。
間髪入れず、狂ったように襲いかかってくる獣。
今だ!
胸の辺りに銃身を突き刺すように押し当てた、その時。
「ああ・・・・・・!ジュリア・・・・・・」
狂気に歪んだ獣の顔。
その頬に、亡き妻の涙の筋跡を見つけた。
馬鹿な俺の脳裏をよぎったのは、妻の・・・・・・
美しく優しかった妻の顔。
微笑み。
妻との思い出・・・・・・。
数え切れないほどの写真が頭上からバラバラと降ってくるように、妻との幸せな記憶が頭の中を駆け巡る。
俺は躊躇った。
だが妻は・・・・・・。
獣となったものは躊躇うことなどしない。
俺の首元めがけ、容赦無く噛みついた。
「うあああ・・・・・・ーーッ!!」
喰いちぎらんばかりに噛みつかれ、俺は悲鳴を上げる。
馬鹿だった。
俺が馬鹿だった。
許してくれジュリア・・・・・・!
お前も愛したエミリオのためなんだ!!
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