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表情を失い、見開かれた両目から涙を流すエミリオ。
白く乾いた唇は震え、何事か呟こうとしているが声にはならない。
「エミリオ!しっかりしろ・・・・・・!!」
俺は我が子に駆け寄り、その小さな肩を掴み揺さぶる。
「・・・・・・パパ」
瞳に光が戻り始めたのを認めると、腕の中に引き寄せ強く抱きしめた。
この・・・・・・血塗られた手で。
「いいか、エミリオ。よく聞くんだ。俺は噛まれた。感染したんだ。一緒には行けない。お前一人で逃げるんだ。賢いお前のことだ、場所は覚えているな?」
「・・・・・・」
無言で頷く息子の温もりを、最後にもう一度だけと胸いっぱいに感じる。
張り裂けそうな思いで引き離すと、リビングのドアを開け息子の背を押した。
「行け!」
立ち止まる息子に俺は叫ぶ。
「行くんだ!エミリオ!!」
びくりと身を強張らせギュッと目をつぶる。
目尻から溢れる大粒の涙。
やがて何かを振り切るように踵を返すと廊下を駆け出した。
玄関のドアが開き、バタン・・・・・・と閉ざされる音。
これでいい。
この辺りにはまだ獣の姿は無かった。
エミリオなら上手く逃げられる。
きっと無事に避難施設に辿り着き、安全な場所で保護してもらえるだろう。
神はお前を見捨てやしない。
そう信じた。
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