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「井上さん、あなたは酔って男の……上司に絡み酒をした迷惑な部下、それだけですよ。俺が女性の上司だったら、セクハラで大問題ですけど……俺は男だし、セクハラで訴えたりはしません。ま、上司に絡んだという点では、大失態ではありますね。俺が機嫌を損ねれば、井上さんが係長になる話も先延ばしになるんですから」
井上はやっと、己の状況を冷静に把握したようだった。
「そ……そっか! そうですよね! これは……不倫じゃないですよね? 俺が酔って上司に絡んで……て、それもマジで大失態じゃないですか!」
すいませんでした! と井上はテーブルに頭を打ちつけながら謝った。
ゴツ! と痛そうな音がしたが、井上は堪えて顔を上げなかった。穂積はケラケラと笑った。
「井上さんて……変な人ですよねぇ。まぁ、今日は許してあげますよ。先輩たちのこともあったし、そのせいで飲み過ぎたんですね。でも……気をつけてくださいね、泥酔して不祥事でも起こして、S県警の名を汚すことのないように」
「管理官……すいませんでした! それから、ありがとうございます!」
顔を上げると、井上の額は赤かった。穂積は苦笑しながら、その腫れを確認しようと手を伸ばし、彼の前髪を優しくかき分けた。
「大丈夫ですか? ああ……赤くなっただけっぽいですね。腫れては……」
少し硬い髪を撫でた穂積の手首を、井上が掴む。馴れ馴れしくしすぎただろうか、と首を傾げると――井上が苦しそうに顔を歪めた。
「あなたの言う通り、俺……今夜は飲み過ぎたみたいです……」
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