おまけ 腐祥事

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 井上は照れ隠しだろう、ハイボールをグイッと煽った。カランと氷の涼しい音がする。  妻思いの優しい夫の横顔に、これから会う予定の、妻を平気で裏切る男を思い出し――井上の優しさが急に苦しくなった。自分はこういう男とは、一生縁がないのだろうな、とも寂しく思う。 「井上さんみたいな、優しくて穏やかな人が夫だと……結婚もいいものなんでしょうね」  結婚も、温かな恋愛さえも自分にはおとぎ話で、気分が塞ぐ。  可愛い年下の男の子にはフラれ、その傷を癒すためにこれから会う男は、妻がいる上にあちこち愛人がいる、昔の男。  一途な恋だけが尊ぶべき恋愛だとも思わないが、自分の年齢を考えれば、落ち着かない恋模様もふと虚しくなる。男好きではあるが、体だけ満たされていればいいと思えるほど、穂積は割り切った恋愛観を持っていない。 「俺が女性だったら、父のような浮気なモテ男より……井上さんと結婚したいです」  穂積は虚勢を張って、井上に微笑みかけた。自分の言い回しが、少し変だったことには気づかなかった。  目が合って――井上が眉をひそめたので、不安になる。 「……なにか、失礼なこと言いました?」 「いえ……管理官て、マジできれいな顔してんだなって」 「はい?」  突然顔を褒められ、怪訝そうに顔をしかめる。井上が慌てた。     
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