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「あ! す、すいません、失礼なこと言って。管理官のこと、きれいな人だとは知ってたんですけど、仕事一緒にするうちに忘れてたっていうか……。でも大塚さんが、管理官のこと可愛い可愛いって連呼するから……改めて、管理官がとんでもない美男子だと思い出しまして」
「……そりゃあ大塚さんに比べたら、人類のほとんどが可愛いですよ」
妖怪辞典にも出てきそうな、鬼か般若のような怖ろしい面構えの組対四課――マル暴――刑事を思い浮かべ、穂積はギュッと眉根を寄せた。
井上が、確かに、と声を立てて笑う。
「大塚さんがあんまり管理官のこと可愛いとか言うし、小野寺と大輔のこともあって……俺もおかしな風に感化されちゃったみたいです。管理官と、こんなに近くに座ってるせいもあると思うんですけど」
「おかしなって……なにを考えてるんですか?」
余裕ぶってからかったが、それは余計なひと言だった。すぐに後悔することになる。
「なんか……管理官とくっついてると、ドキドキします。管理官の目、色が薄くてきれいなんですね」
最後に井上は楽しそうに笑った。だから井上は、冗談を言ったつもりだったのだろう。
それなのに穂積は笑うことを忘れ、真っ直ぐ井上を見つめてしまった。
彼が今褒めてくれた、薄茶の瞳で井上の濃い――二枚目の顔を見つめる。
井上から、ふざけた笑いが消える。
二人のいるテーブルはカーテンで仕切られ、そこは二人だけの世界だった。
キャンドルの炎が揺れ――二人の心もユラユラと揺れた。
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