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うわあああ! と叫びながら、井上はジャケットの胸ポケットからスマートフォンを引っ張り出し、画面を至近距離で見つめた。
「井上さん……?」
「子供たちの写真を見て、頭を冷やしてるんです! ううっ、ごめんよ、パパは自分がこんなに意志薄弱だとは思わなかったんだよ!」
「井上さん……」
「あああ! 絶対離婚だ! 慰謝料をガッポリ絞り取られて、大学卒業まで養育費を払っても、子供には一生会わせてもらえないんだ! うわあぁ、どうしうよう! 娘とバージンロードを歩けないっ!」
井上はスマホの画面に額を擦りつけた。
たまらず穂積は噴き出した。
のん気に笑う――不倫相手に、井上が怒って振り返る。
「管理官! 笑いごとじゃないんですよ! 俺に妻と子供を裏切らせるなんて……あんた、とんでもない男だ!」
どこまで本気なのか――それとも見た目以上に酔っているのか、穂積は笑いを堪えるのが辛かった。
「なにを言ってるんですか。ゲス不倫て……俺とあなたじゃ、不倫になりっこないでしょ?」
「……え?」
井上は、本気で驚いていた。穂積は笑いをかみ殺し、動転する哀れな家族思いの部下をなだめた。
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