おまけ 腐祥事

28/34
前へ
/473ページ
次へ
 うわあああ! と叫びながら、井上はジャケットの胸ポケットからスマートフォンを引っ張り出し、画面を至近距離で見つめた。 「井上さん……?」 「子供たちの写真を見て、頭を冷やしてるんです! ううっ、ごめんよ、パパは自分がこんなに意志薄弱だとは思わなかったんだよ!」 「井上さん……」 「あああ! 絶対離婚だ! 慰謝料をガッポリ絞り取られて、大学卒業まで養育費を払っても、子供には一生会わせてもらえないんだ! うわあぁ、どうしうよう! 娘とバージンロードを歩けないっ!」  井上はスマホの画面に額を擦りつけた。  たまらず穂積は噴き出した。  のん気に笑う――不倫相手に、井上が怒って振り返る。 「管理官! 笑いごとじゃないんですよ! 俺に妻と子供を裏切らせるなんて……あんた、とんでもない男だ!」  どこまで本気なのか――それとも見た目以上に酔っているのか、穂積は笑いを堪えるのが辛かった。 「なにを言ってるんですか。ゲス不倫て……俺とあなたじゃ、不倫になりっこないでしょ?」 「……え?」  井上は、本気で驚いていた。穂積は笑いをかみ殺し、動転する哀れな家族思いの部下をなだめた。     
/473ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加