瞳を閉じて

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満月がひっそりと優雅に浮かぶ夜の空。 月が綺麗だと思ったのはいつぶりだろう。 私の目に映るのは月だけ、と言ったら語弊がある。 ちゃんと見えている物はある。 中途半端に残った建物や瓦礫の山。 潰された小さな花たち。 他にも何かしら残っているだろう。 あぁ、さっきまでは普通で平凡な何の変哲もない1日だったのに。 あれ?そういえばさっき見たのは太陽だったような。 まぁ、何でもいい。 こんな状況になって普段人工的な明かりで隠れている月が美しいと、綺麗だと思った。 月の光が温かいと思った。 優しい明かりは荒れた道を平等に照らす。 思い出した。 パンケーキを食べに行こうって約束して待ってたんだった。 前から目をつけていたから早く食べたいなぁ。 こんな月の綺麗な夜だ。 友達に会う前に、子供っぽいかもしれないけど願うか分からない願い事をしてみようかな。 …どうか私を助けてください。 瓦礫に挟まれてしまい唯一若干動かせる顔で見た景色に絶望し、言い難い虚無感や心細さ、段々と抜けていく力に恐怖を感じるが抵抗できない。 折角だからこの空を、写真のようにしっかりと記憶に刻んでおこう。 今は周りに誰もいないかもしれない。 でも徐々に落ちていく瞼を次に開けた時にはきっとまた誰かに会える。 願いが叶ったその時に、この美しい月が浮かんだ夜空の話をしたいなぁ。 そう思いながら私は瞳を閉じた。
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