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「川原さん。ありがとね。午後は大丈夫だから病棟戻ってもらって良いよ」
池橋に声をかけられた看護助手・川原は声は発さず一礼して外来を出ていった。処置室の前を通り一瞬、凛久と目が合った。
「ねえねえ、楓さん」
「ん?」
「川原さんってさ、なんか不思議な人だよね」
「うーん。まあ、病棟でもそう言われてるね。」
「さっき、一瞬睨まれた気がする・・・」
「本当?ま、普段は外来にはいないし、りっちゃんが入院するような大きな発作起こさなかったらもう会う事ないんじゃない?」
「あ、そういう結論に持っていくんだ。楓さんってだんだん和先生に似てきたよね。」
「やめてよ。あんなぶっきら棒と一緒にされたくないよ」
「聞き捨てならないなー」
楓と凛久が楽しげに話していると池橋がやってきた。
「あ、来なくていいって言ったのに」
「本当に可愛くないねお前は。てか楓ちゃん俺に似るの嫌なの?」
「嫌ですよ。」
「本当に即答じゃん」
「先生ショックなの?(笑)」
「笑いながら言うなよ」
「あ、そうだ。和先生に聞きたい事あったの」
凛久はそう言って、ガバッと起き上がった。
「こら。点滴抜けちゃうよ」
「昨日の朝、この病院なんかあったんでしょ?」
「え?」
「産婦人科の部長が不倫してる」
「お前、なんでそんなこと知ってるんだよ。」
「探偵助手を舐めないでよね」
「誰も依頼なんかしてないだろ」
「情報収集も大事な仕事なの」
「もういいから」
「詳しく聞こうと思ってたのに」
「ていうかお前、探偵助手なんて仕事、由凛さんに心配かけてばっかりだろ」
「なんてって何よ。坂原さんは先生の友達でしょ」
「坂原がどうとかじゃなくて、探偵って仕事が危ないって言ってるの」
「お母さんにしても和先生にしても心配性すぎ。」
「まあまありっちゃん。心配されるうちが華よ」
「え、楓さん達観しすぎじゃない?」
「ふふ。まあとにかく、由凛さんにとってりっちゃんは娘でもあり、たった一人の家族でもあるんだから、心配されて当然っちゃ当然よ。喘息も心配だし。」
「そうだぞ。」
池橋は拗ねる凛久を横にしてタオルをかけた。
「安静にしてなさい」
そう言って後を鈴原に任せて病棟へ向かった。
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