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俺はしばらくしてスタッフルームに戻り、外来に向かった。その途中で神坂とすれ違った。
「来宮。聞いた?」
「ああ」
「いつもよりちょっと人少ないよね」
「そうか?気のせいだろ」
「やっぱあんな小さな記事でも気にする人は気にするよね」
「病院に何か問題があるんじゃないかってか?」
「何言ってんの来宮。池橋に聞いたよ。殺人かもって思ってるらしいね」
「声がでかいぞ」
「あ、じゃあまた後でね」
神坂と別れ俺が一般内科の外来に行くと既に準備が整っていた。
「おはよう斉藤」
「おはようございます先生、最初の患者さん呼びますね」
順調に診察は進み、最後の患者になった。
「磯山菜穂さん、どうぞ」
磯山菜穂と呼ばれた女性は、勢いよく診察室に入ってきた。
「こんにちは」
「産婦人科部長は、自殺では無いですよね」
「は」
「あなたが殺したんですか?」
とんでもないことを言って見つめてくるこの女・・・一体何者。と思って固まっていると、一気につまらなそうな顔をしてこう投げかけてきた。
「ふん。本当に何も知らないんだ」
「あなた何のつもりですか。診察を受ける気が無いなら帰ってもらって良いですか」
斉藤が彼女を連れ出そうとする。すると彼女は口を開く。
「私、水野警察署の磯山です。警察は自殺と判断しましたが、私個人として納得していません。来宮さん、あなたも同じなのでは?」
「僕は。状況も分からないし何とも言えません。」
「先生」
「院内の人にこうして罠をかけてるんですけど、誰一人として引っ掛かりませんねえ」
「あなた、刑事のくせに何をしてるんですか?」
「刑事と言っても所轄の刑事には権限なんて無いんですよ」
その時、別の看護師が何か斉藤を呼びに来た。斉藤はこちらを気にしながらも席を外した。
「あ、看護師さん居ない間に」
そう言ってその女は俺に小さなメモを渡してきた。
「私の連絡先です。先生にしか渡してません。何かあったら連絡ください」
彼女はそう言って足早に出ていった。その時、斉藤が戻ってきた。
「あれ。あの人は?」
「帰った」
「何か変なものとか貰わなかった?」
「・・無いよ」
「ならいいけど。ああもう。塩撒いとかないと!」
斉藤はそう言って、どこから持ってきたのか本当に塩を持ってきて撒いていた。ちょっと笑ってしまったが、そういうところも俺は好きだった。
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