3、 bar「star emotion」 2017年4月21日 22時

1/1
前へ
/78ページ
次へ

3、 bar「star emotion」 2017年4月21日 22時

水野坂の裏路地にあるバーに男女がいた。 「俺はさ、本当はこんなところで終わる男じゃないんだよ!」  男は誰に言うでもない愚痴を話していた。女は黙って聞いている。 「3流雑誌の編集長止まりじゃなくてさ。役員になってるはずだったんだよ。」  酒を煽りうなだれる男に女は初めて口を開く。 「そうですね。私もそう思いますよ」 「そうだろう?!よく分かってくれるよね君は。必ず載せるから、またいい記事頼むよ有紀理ちゃん。いろいろ忙しいとは思うけどさ」 「はいもちろんです。編集長の武勇伝、もっと聞きたいなぁ」 「ほんとに君は良い子だね。」 「編集長。前に載せたかったスクープがあったって」 「ああ。あれね」  編集長と呼ばれる男は話し始めた。 「医者の不正だよ」 「医者?医療ミスですか?」 「いや。そうじゃくて。文書偽装ってやつだよ。産婦人科医が出生証明書を不正に偽造したっていう」 「はあ。なんで没に?」 「圧力だよ圧力。金持ちが圧力かけたんだ。その情報を俺にリークした奴は、消された。」 「それって・・」 「自殺したことになって。」 男はまた酒を煽る。 「あれがあればもう少し早く編集長になって、もっと上に行けたはずなんだ」 「・・・」 「有紀理ちゃん?聞いてる?」 「・・・あ、はい。今でも恨んでる人は編集長以外にもいるんでしょうか」 「そりゃいるだろう。何しろ奴らは、あろうことか院長と産科部長になってその病院に居座っている。」 男がそう言って言葉を切ると、女の様子が少し変わった。眼つきがフリーライターというよりは、怒りに震える女になっていた。 「そんな昔のことはもういいよ。それより有紀理ちゃん。今日はこの後」 「すみません。明日も早いのでこれで失礼します。貴重なお話、ありがとうございました!」 有紀理はそう言って帰ろうとしたが、もう一度男を振り返る。 「あ、編集長。当時の編集長・・・今の社長、紹介してもらって良いですか?」 こう言い残し有紀理は去っていった。男は再び酒を追加した。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加