10人が本棚に入れています
本棚に追加
4、 坂原探偵事務所 2017年4月22日 10時
翌日、俺は結局ここに立っていた。水野医療センターからほど近い路地裏のビルの一室だ。
「坂原、いるのか?入るぞ?」
そう声をかけたが返事が返ってこない。朝から出かけているのか?
「おい坂原。いないのか?」
「ん?なんだ。来宮か」
「お前・・もう少しちゃんとしたらどうなんだ?」
坂原は事務所のベッドで寝ていた。どう見ても3日は風呂に入っていない。
「風呂入れよ。汚いぞ」
「今、何時なんだ」
「お前、本当にクズじゃないか」
「お前何しに来たんだよ」
俺は帰ろうかと思ったが、他に頼る当てもないので思い留まる。
「お前に頼みがある」
「来宮が?珍しいね。」
「探してほしい人がいる。白野礼子っていうピアニスト知ってるか?」
「さあ?でも、ピアニストでしょ?すぐ見つかるよ」
「違う。ピアニストはいるんだ。その娘」
「うん。見つかるんじゃない?」
「何か事情があるらしい。出産した瞬間に手放したらしい」
「そんなことあるんだ。」
「俺も良くわからない。情報は白野礼子というピアニストの娘ってことしかないんだ」
「名前は?」
「分からない」
「これは白野さんの依頼なの?」
「違う。俺からの依頼だ。」
「それはどうなのかな」
「分かってる。でもいざという時の為に探しておいて欲しい」
「分かった。りっちゃんにも伝えとくから」
「凛久・・あいつ大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が?」
「いや」
りっちゃんこと伊沢凛久は坂原の助手で池橋の患者だ。
「大丈夫かって言われても、りっちゃん居ないと困るし」
「ここには来てるのか」
「見つかったら、お前に連絡すればいいのか?」
「ああ。当り前だろ」
「当たり前ねえ。俺に頼めって言ったの、斉藤さんだろ」
「え?」
「お前が患者のプライベートまで首突っ込むなんて滅多にないだろ。あるとすれば斉藤さんに言われたくらいかなーと」
「失礼だな。俺だって患者のこと」
「こっちはいつ告白すんのかなーってずっと思ってるんだけど」
「・・あいつは、俺のことは」
「はあ。意気地なしだなー。」
「お前に言われる筋合いはない!」
「まあいいや。この後11時から、来客あるから」
「・・帰るわ。とにかく頼んだぞ」
まったく。坂原も勝手なことばかり言いやがって。でも、これで白野さんの娘が見つかればそれはそれでいいのだからと自分に言い聞かせて病院へ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!