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いただきます
高校のクラスメイトにかなり図々しい子がいた。
人に物をねだるのは当たり前だし、放課後などにみんなでお菓子を食べていると、自分は一度も自らお菓子を振る舞ったことはないのに、人のお菓子をガンガン食べてしまう。それも、誰一人勧めていないにも関わらずだ。
食べていいなんて言ってない。そう抗議すると、その子は必ず、食べる前に『いただきす』と言った。だからいいのだと主張した。
そんなことばかりしていたからその子は周りに嫌がられ、卒業の頃には友達など誰もいなくなっていたと思う。
さて、卒業から数年が経ち、そろそろ誰もが社会人になった頃、同窓会が行われた。
みんな大人びたけれど、基本的には懐かしい顔触ればかり。でもそこにあのクラスメイトはいなかった。
聞けば、高校卒業以降は誰もが完全に疎遠になり、いつの間にか実家も引っ越したそうで、今の連絡先など誰も知らないという。
とはいえ、連絡先を知っていたとしても、誰もあの子を同窓会に呼ぶことはなかっただろうということで話は落ち着き、幹事の挨拶が終わって、いよいよ立食形式の同窓会が始まろうとしたその時だった。
「いただきます」
聞こえたのは確かにあの子の声だった。
みなが一斉に周囲を見るがどこにも姿は見当たらない。
今のは何だったのだろう。そんな疑問を抱えて暫く周囲を見ていたら、何人かが声を上げた。
「料理がない!」
「こっちも!」
同様の叫びがたちまち会場中に響き渡る。でもそれは仕方のないことだ。何しろ、ほんの数十秒前まで確かに存在していた料理が総て忽然と消滅したのだから。
どのテーブルにも残っているのは空の器だけで、瓶や缶に入っていた飲み物すら中身だけが消えていた。
みんな愕然としていたが、無言で交わす視線が、誰もが同じ考えであることを伝え合っていた。
生霊なのか、はたまた亡霊の仕業なのかは知らないけれど、あの子、ここに現れたんだね。
それにしても、誰も連絡を入れていない同窓会でコレって、生きているならとんでもない執念深さだし、亡くなっていたとしたら、死んでも図々しい意地汚さは治らないってことなんだね。
これだからみんなに嫌われまくったっていうのに…ホント、呆れちゃう。
いただきます…完
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