愛惜の日

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「淡いお花を合わせるのが難しいのです。どうもいつも、ぼんやりとした出来映えになってしまうの。お姉様、直して下さらない?」 つまらない理由をつけてはつど話し掛ける私に、お姉様はいつも少し困ったようにほほ笑んで丁寧なお答えを下さいます。 でも今日はお答えの後に、 「もう私に声を掛けるのはおよしになって」 と、確かにそうはっきりとおっしゃられたのです。 私は何も言葉にできず、ただもう悲しくて悲しくて、身勝手な思いに浸り込んでは、ひどく泣いてしまいました。 「違うのよ、違うの……ゆきさんを嫌いになったのではないの。ただ私といると、ね、分かるでしょう。あなたのお立場まで危うくなってしまうのよ。だから、さあお顔を上げて。どうか聞き分けてちょうだいね」 泣き止まない私を引き寄せ根気よくさすって下さるお姉様。その手の温もりが、お姉様の言葉に嘘のないことを伝える。 私は安堵と嬉しさと、でもそれを聞き入れたらもう二度とこの手が私に触れることはないのだと悟ると、幾重にも悲しみが増して、また新たな涙を流してしまうのです。
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