愛惜の日

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** 帝都郊外の銀杏並木をさくさくと踏み鳴らして、お姉様は迷うことなく(くだん)のご親戚のお屋敷へと足を向けられました。 その正門から入るわけには参らぬ私は、ぐるりお屋敷を取り囲む塀の一角の朽ちて崩れたわずかな隙間から、お屋敷の庭園に忍び込むことがかないました。 植込みの陰に隠れて奥を覗き込みますと洋館の白壁が見えます。壁には二つの窓と一つの扉があり、その扉へと続く外回廊の先にお姉様が背の高い男性と姿を現しました。 私はどきりとしました。それほど男性が素敵だったからです。 薄茶色の縦縞の三つ揃えを優雅に着こなす格好の良い胸と、口元にはきちんと手入れの行き届いた口ひげ。後ろにかきあげた黒髪はきりりと光っている。 対してお姉様は、先程まで着ていらした黒橡色の上着を手に掛けて、若葉色の銘仙に海老茶色の袴を合わせていらっしゃる。 華奢な黒いブーツがコツコツと石畳みを踏みしめるたび、長い髪が、その頂きに留まる一斤染めのおリボンがそよそよと風になびくのが美しく……。
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